ある日、
具合が悪くなったと連絡が入った
寝室のある
類人猿の獣舎のバックヤード
ここに入った人ならわかるだろう
ホーホーホホホホ
ギャー、ギャギャギャギャ
バタン、ドオーーン、
ドンドンドン、バターン
騒々しい上に、チョットでも、油断して
檻のすき間の広いところに、近づくと
テナガザルが手を出して
引っ張ってくる
挑戦的に檻越しに体当たりを仕掛けてくる
ドオーーン
オラウータンは、静かだが
ジーーっとこちらを観察している
不気味だ
人間が、歩く管理通路の下は
寝室と展示場をつなぐ
動物が移動する通路になっている
そのため、檻の上を歩く
足元が、スカスカで
慣れるまで、こころもとない
檻でへだたれているとはいえ
下手な、幽霊屋敷よりも
入るのに勇気がいる
私も、初めて入った時には
はっきり言って
ビビった
そんな、騒々しい中で
吹き矢で、麻酔することになった
なにぶん頭の良い動物
寝室の、どこに行けば
吹き矢が当たりにくいか知っている
担当のキーパーさんが、違う方向から
気をそらさせるため
声をかけたり物音をたててくれる
吹き矢を向けると
ギャーギャー、ギャーギャー
さらに
一気に、騒々しくなる
思いっきり息を吸い込み狙いを定め
フッ
思いっきり息をはく
太ももに見事に命中
パッと
手で麻酔液の入った注射器を引っこ抜く
しかし
麻酔薬はすでに注入
効果が現れるまでの間
抜かれた注射筒を指差し
持ってきて!と合図したら
しっかりと、持ってきて
檻から吹き矢を、手渡してくれた
おおおおーーー
新参者の獣医さんの言う事を聞いてくれた!
類人猿は、頭がよく
人間のオスメスもよくわかる、と
担当のキーパーさんが話してくれた
だから
人間のメスはどうしてもなめられて
言うことをきいてくれないらしい
しかし、私も人間のメス
自分に吹き矢を射った相手なので
観念したか?
麻酔が効き
注意深く、診察
血管を確保して点滴をする事になった
麻酔がかかっているとはいえ
人と同じぐらいの大きさがある動物と
一緒の檻に入っている
慣れないうちは
襲ってくるのではと、不安に思いながら
定期的にチェック
無事に治療がおわり
しっかり歩きだすのを確認して
ホッとする
そして
手渡された吹き矢を握りしめ
私の言うことをきいてくれるに
違いないと思いながら
ギャーギャーと興奮さめやらぬ
類人猿の寝室を後にした
しかし、その数日後…
私が前を通ると
バーーン
ドンドンドン
しっかり威嚇してきた
・・・
頭の良い、動物である
アイキャッチ・イラスト: はるいらさん
https://twitter.com/hal_kakeibo
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